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東京高等裁判所 昭和32年(ラ)385号 決定

抗告人 西村 七五三三

相手方 大沢政夫

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告理由は、抗告人の所有であつた本件家屋は債権者蒔田由蔵の申立による東京地方裁判所昭和二十八年(ケ)第一八号競売事件において相手方の競落するところとなり、同年十二月二十一日相手方名義に所有権取得の登記がなされたが、相手方は即時同家屋を原田忠太郎に譲渡し、同日所有権移転登記がなされた、しかるに相手方はその後昭和三十二年一月十八日東京地方裁判所昭和二十八年(ケ)第一、〇二九号不動産引渡命令事件において本件家屋引渡命令を得、同年四月十三日これが執行に着手した、しかし前記のとおり相手方はすでに昭和三十一年十二月二十一日本件競落家屋を第三者たる原田忠太郎に譲渡し、本件引渡命令がなされたとき相手方は本件家屋の所有者ではないから、右引渡命令は相手方のため効力を生ずるに由ないものである、よつて右引渡命令の執行に対する抗告人の異議申立は理由あるにかかわらずこれを却下した原決定は不当であるからその取消を求めるというにある。

しかしながら不動産の競売手続において、競落許可決定確定後右競落人が競落代金を完納したときは、不動産引渡の命令を得ることができるので右は競落人に与えられた執行法上の権利であり、競落人が目的不動産を第三者に譲渡したため当然にその権利が消滅するものとなすことはできない。何故ならば、その場合競落人は自己において右不動産の引渡を受けさらにこれを譲受人に引渡す義務と必要があることはいうまでもないからである。本件の場合も相手方は右の必要から本件引渡命令を得たものと認められるのである。それ故譲受人たる前記原田忠男において抗告人より直接本件家屋の引渡を受けんとするにはもとより本件引渡命令自体によつては不可能であり、原田自身のための債務名義を必要とするであろうが、本件は原田に直接の引渡を求めるものでなく、競落人たる相手方に引渡を求めていることが明かであるから何ら違法の点あるを見ない。

すなわち右と同旨に出た原決定は正当であり本件抗告は理由がないから主文のとおり決定する。

(裁判官 藤江忠二郎 谷口茂栄 浅沼武)

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